企業結合の審査〔「合併審査規則」〕

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企業結合(Unternehmenszusammenschlüsse)の審査に関する新しい規則が、2004年5月1日のEU拡大と同時に施行されますが、この新規則により、関係する法的枠組が抜本的に改革されます。この欧州共同体規則2004年139号は、「単一窓口」(einzige Anlaufstelle)の原則を強化して、国内競争当局の協力を促進するとともに、届出手続・審査手続の簡素化を定めています。

法令

企業結合の審査に関する2004年1月20日の理事会規則欧州共同体2004年139号(「欧州共同体合併審査規則」)(欧州経済地域にも関係のある文書です)

概要

背景

欧州経済共同体規則1989年4064号が成し遂げた成果は、概ね肯定的に評価できるものです。しかしながら、12年間の適用の間に積み重ねられてきた経験や、2001年の緑書公表を契機に繰り広げられた議論によって、この制度には改善の余地があるということが示されました。

まさに現代経済システムにおいて企業集中の度合いが増してきたことによって、欧州委員会が経済分析を調整する必要性が出てきました。他方、合併審査制度をもっとフレクシブルなものにしていくことも必要となりました。1989年に採択された合併審査規則は「単一窓口の原則」に基づいており、すべての大きな越境的合併は、もっぱら欧州委員会によって審査することとされました。これに対し、新規則は、同一の企業結合案件についてEU内の様々な競争当局に複数の届出を出さなければならないという事態を回避しつつも、「補充性原理」を採用して、当該合併事案の審査に最も適した競争当局が管轄を有することとしました。

欧州経済共同体規則1989年4046号を改革するものとして、次のような刷新的な要素が含まれています:

  • 企業結合分析にあたっての実質法上の審査基準を明確化します。
  • 当事者間で法的拘束力のある合意が締結される以前に当該企業結合を届け出ることを可能にするとともに、かかる合意締結後1週間の期限を廃止することにより、届出の期限を緩和します。
  • 欧州委員会から加盟国当局に事件を移送する制度と、加盟国当局から欧州委員会に事件を移送する制度を、簡素化すること。 当事者が義務の承諾を提出する期限を3週間延長できるにするとともに、欧州委員会が調査の慎重を期して(関係企業の承諾を得て)最長4週間の期限延長できるようにすることにより、審査期間をフレクシブルにします。
  • 欧州委員会の調査を妨害する企業に対して、より高額の過料を課するために必要な情報の収集を容易にするため、欧州委員会の調査権を強化します。

この規則は、企業結合の調査にあたって考慮される実質法的審査基準については、「これまで依拠してきた『市場支配テスト(Marktbeherrschungstest)』と、他の法秩序で使用されてきた『SLCテスト』(競争の実質的減少〔substantial lessening of competition〕)とでは、余りにも似通った結果になってしまう」という認識を出発点としています。1989年規則は、「市場支配的地位」の概念に依拠しており、これによれば、一つまたは複数の企業が、競争のパラメータ(特に製品の価格・数量・品質、販売、技術革新)に対して影響力を行使するような経済力、または、競争を著しく阻害する経済力をもっている場合には、当該企業は「市場支配的」であるとみなされました。この基準において決定的なのは、「企業結合が行われた後も、消費者に十分な選択肢が保障されるくらい十分に競争が活発であるか」という点です。

現在の欧州委員会やEU裁判所の判例によれば、「市場支配」の概念は、複占(Duopole〔二つの企業による寡占〕)(欧州司法裁判所のカリ(Kali)事件判決、ザルツ対MdK(Salz/MdK)事件判決、ジェンカー対ロンロー(Gencor/Lonrho)事件判決を参照して下さい)、集団的市場支配の事例、寡占(Oligopole)(エアツアーズ対ファースト・チョイス事件(Airtours/First Choice))を含むものと解されています。この規則も、この解釈を斟酌しており、合併する企業が厳格な意味での「市場支配力」をもたない寡占市場への競争阻害的な影響についても、これすべてを「市場支配」に含めることにしています。〔つまり、〕規則の適用範囲は、競争法上の問題を呈する複占事案・寡占事案にも拡大されました(「水平的企業結合」(競争企業間の企業結合)の判断についてのガイドラインを参照してください)。

適用範囲

合併審査規則は、すべての「共同体全域の重要性を有する企業結合(Zusammenschlüsse von gemeinschaftsweiter Bedeutung)」を対象としています。企業結合は、以下の方法で継続的な支配の転換(Kontrollwechsel)が起こることにより生じます:

  • それまで互いに独立していた企業(の一部)の二つ以上が合併する方法、または、
  • 少なくとも一つの企業をすでに支配している一人以上の人、または、一つまたは複数の企業が、一つまたは複数の他の企業の直接または間接の支配を獲得する方法

複数の獲得行為が行われて、それらが互いに依存しているか、または、それらが経済的に互いに結びついている場合には、企業結合とみなされます。

企業結合は、以下の売上を得ている場合には、「共同体全域の重要性」を有するものとされます:

  • 企業結合に参加するすべての企業の全世界の総売上が、合計で50億ユーロを超えている場合
  • 少なくとも2つの参加企業の共同体全域の売上が、おのおの、2億5000万ユーロを超える場合。但し、参加する企業のおのおのにつき、同一の加盟国において得ている売上が、EU全域の売上の3分の2を超えている場合は、この限りではありません。

上記の基準値に達していない企業結合であっても、以下の場合には、「共同体全域の重要性」を有するものとされます:

  • 企業結合に参加するすべての企業の全世界の総売上が、合計で25億ユーロを超えており、
  • 企業結合に参加するすべての企業の総売上が、少なくとも3つの加盟国において、それぞれ1億ユーロを超えており、
  • 少なくとも3つの加盟国のそれぞれで、少なくとも2つの参加企業の総売上が、おのおの2500万ユーロを超えており、かつ、 少なくとも2つの参加企業のEU全域の売上が、おのおの、1億ユーロを超えている場合。但し、参加企業が、おのおの、EU全域の売上の3分の2を超える売上を同一の加盟国において得ている場合には、この限りではありません。

最も早く調査することができるのは売上ですが、売上だけが「共同体全域の重要性を有する企業結合」の判断基準ではありません。「3+テスト」と呼ばれるもう一つの基準は、少なくとも3つの加盟国が移送の申請を行う場合には、欧州共同体の専属管轄となることを定めています。25か国〔当時〕に拡大した欧州連合においては、規則において新しい事前届出手続が定められたように、「単一窓口の原則」を強化することこそが、実感を伴った手続の簡素化や、複数の届出を行う案件数の削減に貢献するのです。

この二つの基準と鼎立するのが、管轄加盟国当局への移送の新しい基準です。すなわち、今後、加盟国は、欧州委員会に対して、「共同体全域の重要性を有する企業結合」が当該加盟国内の「区分された市場」における効果的な競争を著しく妨げる(おそれがある)との情報を提供することができます(移送手続の詳細情報については下記参照)。この国内競争当局への移送制度は、「単一窓口の原則」を空洞化させるものではありません。むしろ、起こりうる影響について最もよく判断できるレヴェル〔共同体レヴェルか加盟国レヴェルか〕において企業結合を審査するのに役立つものといえます。

審査の目的は、企業結合が共同市場に適合するかを調べることにあります。すなわち、企業結合が、共同市場における効果的な競争を著しく阻害するような支配的地位を基礎付けたり強化したりするかということを確定することにあります。

届出手続:企業結合参加企業と参加人

通常の場合、「共同体全域の重要性を有する企業結合」は、契約締結、買収条件の公表、または、支配を基礎付ける持分の取得の後、その履行前の時点で届け出なければなりません。

但し、新規則によって、企業結合の計画の欧州委員会への届出期限が緩和され、拘束力ある合意の締結以前に届出を行うことが可能となり、また、契約締結後1週間以内の届出義務も廃止されます。これにより、よりフレクシブルな制度の運用が可能となるだけでなく、企業結合の審査の際に他の国々の競争当局と調整を行うことも容易となります。

管轄国内当局との調整に関しては、規則は「企業結合に参加する人・企業は、欧州委員会に対して、当該企業結合の届出前に、理由を付した申請において申述を行うことができる」との規定を置いています。この事前届出により、当事者は、欧州委員会に対して、「当該企業結合計画は越境的な合併となるが、一つの加盟国の市場にしか影響を与えない」との確信を与えることができます。理由を付した申請が欧州委員会に受け付けられてから15営業日以内に、関係加盟国から移送について異議が申し立てられなかった場合には、欧州委員会には、当該事案の全部または一部を当該加盟国の管轄競争当局に移送する(その場合国内競争法が適用される)ため、25日間が与えられます。

人または企業が、「共同体全域の重要性を有しない企業結合」が欧州レヴェルで有しうる越境的な影響について、欧州委員会の注意を喚起したい場合にも、同一の手続が適用されます。この場合には、申請が受付から15営業日以内に欧州委員会が明示的に拒否をしない場合には、申請は認められたものとみなされます。いずれの関係加盟国も反対意見を述べない場合には、当該企業結合は「共同体全域の重要性」を有するものと推定されます。その場合、参加当事者は、単一の窓口に問い合わせを行うことができますし、届出も欧州委員会にのみ行うことができます。加盟国(この場合最低3つ)において届出を行うことはできません。そのほか、旧規則が規定していたように、少なくとも「区分された市場」において競争が著しく阻害されている場合には、加盟国は、企業結合の審査を欧州委員会に移送することができます。

理由を付した申請は、欧州委員会によって直ちにすべての加盟国に転送されるので、最も適したレヴェル〔共同体レヴェルか加盟国レヴェルか〕で審査を行うことが可能となります。手続が複雑なため、欧州委員会は、遅くとも2009年7月1日までに理事会に対して報告を行わなければなりません。

手続の開始:欧州委員会

届出の受付後は、欧州委員会が、手続を開始し、審査を行い、制裁を課するのに必要な権限を有します。さしあたり、欧州委員会は決定により、以下のことを確定します:

  • 届け出られた企業結合にこの規則が適用されるか。
  • 当該企業結合は共同市場に合致するものであるか。
  • 当該企業結合が共同市場と合致することについて、深刻な懸念の契機となる事柄はあるか。

「共同体全域の重要性を有する企業結合」は、原則として、届出前や届出後3週間経過前に履行してはなりません。これに反して、企業結合が既に履行されてしまい、かつ、当該企業結合が共同市場に適合しないものと宣言された場合には、欧州委員会は、関係企業に対して、当該企業結合の解消を命じるか、または、企業結合履行前の原状を回復するのに適当なあらゆる措置を講ずることができます。

届け出られた企業結合が規則の適用範囲に該当しても、共同市場との適合性について深刻な懸念をもたらすものでなかったり、共同市場に適合させるのに僅かな変更で十分である場合には、仮の措置を命ずることもできます。これに対して、当該企業結合が共同市場との適合性について深刻な懸念の契機をもたらすものである場合には、欧州委員会は、関係者・関係企業に対し、追加的な情報を要求することができ、場合によっては、徹底的な現場検査を行うこともできます。欧州委員会は、当該企業結合を共同市場に適合させるために必要な変更を要求することができます。

欧州委員会は、単なる照会または〔正式な〕決定により、参加当事者に対して、補充的な情報を(要求する情報が職務上の秘密に属すると分かっていても)要求することができます。欧州委員会は、検査を行うこともできます。委任を受けた欧州委員会職員やその他の権限を与えられた者には、書面の委任状を提示して、以下の行為を行なう権限があります:

  • すべての場所・土地・交通手段に立ち入る権限。
  • 帳簿その他の営業書類を検査し、その写しを作成する権限。
  • すべての営業空間・帳簿・書類を封印する権限。
  • 事実や営業書類についてすべての企業代理人に説明を要求する権限。

企業が検査に応じない場合には、委任を受けた職員は、該当する加盟国当局の協力を受けることができ、場合によっては公権力が行使されます。委任を受けた職員は、国内法を遵守しつつ検査を行います。

そのほかこの規則では、修正措置の徹底的な審査や加盟国への諮問により多くの時間が割けるよう、義務承諾の提出期限を3週間延長(最長で90営業日まで)することにより、欧州委員会が企業結合の審査の時間的枠組をフレクシブルに組めるようになっています。さらに、この規則によれば、参加企業が手続の開始後54営業日以降に義務の提示を行った場合、または、参加企業(または、参加企業の同意を得て欧州委員会)の申請により、最長で3週間から4週間のさらなる期限延長ができることとされています。

この規則の遵守を確実にするため、欧州委員会は、以下の制裁を課することができます:

  • 過料(Geldbußen):欧州委員会は、企業が故意または過失により不実の陳述・誤解を招く陳述・不完全な陳述を行ったり、期限内に情報を提供しなかった場合、および、企業が検査中に行われた封印を損壊した場合には、当該企業に対して、最高で総売上の1パーセントまでの過料を課することができます。
    欧州委員会は、企業が故意または過失により履行前に企業結合の届出を行わなかったり、欧州委員会の決定に違反した場合には、最高で当該企業の総売上の10パーセントまでの過料を課することができます。
  • 強制金(Zwangsgelder):欧州委員会は、企業に対して、情報提供・検査〔等〕に関する決定によって定められる時点からの遅延の営業日ごとに、最高で1日あたりの平均総売上の5パーセントの強制金を課することができます。

欧州委員会は、共同市場への適合性・不適合性の決定や、罰金・強制金を課する決定を行う前に、加盟国管轄当局の代表者により構成される諮問委員会の意見を聞かなければなりません。欧州司法裁判所は、過料や強制金の取消・引き下げ・引き上げを行うことができます。

移送手続:欧州委員会と加盟国管轄当局

企業結合が最も審査に適した当局により審査されることを確実にするため、加盟国管轄当局への移送手続が簡素化されました。

「共同体全域の重要性を有する合併事案」について、これまでは、売上高基準と「3+テスト」(欧州共同体に専属管轄がある場合には、少なくとも3つの加盟国が移送申請を行わなければならないという基準)が適用することにより決せられてきました。この二つの基準は、企業結合の管轄が加盟国となるか欧州委員会となるかをきわめて迅速に決めることができるものでしたが、不十分なものであることが判明しました。このため、この規則では、加盟国管轄当局への移送について新たな基準が導入されました。

新たな基準によれば、加盟国は、届出の写しを受け取ってから15営業日以内に、自らまたは欧州委員会の求めに応じて、「当該企業結合は国内市場の競争を著しく阻害する」旨を伝達することができます。該当する製品市場またはサーヴィス市場は、共同市場の本質的部分を構成せず、かつ、「区分された市場」(gesonderter Markt)のすべてのメルクマールを充たしていなければなりません。欧州委員会は、当該事案について自ら審査するか、それともその全部または一部を該当する加盟国の管轄当局に移送するかについて決定するのに、届出から65営業日の期間が与えられます(何らの決定もなされなかった場合には、当該事案は加盟国に移送されたものとされます)。

その反対に、加盟国のほうから、欧州委員会が審査を行う旨の申請することもできます。この申請の対象となるのは、「共同体全域の重要性」を有してはいないものの、当該申請加盟国(単数・複数)の領土の本質的構成部分の通商を妨げるおそれがある企業結合です。欧州委員会のほうからは、該当する加盟国の競争当局と参加企業に対して通知を行い、すべての他の加盟国が申請に参加できるよう、15営業日の期間が与えられます。〔その後〕欧州委員会が10営業日の期間内に移送を行う(行わない)決定をしない場合には、申請に応じた決定がなされたものとされます。

欧州委員会は、通常、つねに加盟国競争当局と緊密に連携をとりつつ、規則に定められた手続を行います。したがって、欧州委員会は、加盟国競争当局に対して、3営業日以内に届出の写しを送付するとともに、可能な限り速やかに重要な提出文書〔の写し〕を送付しなければなりません。効率をよくするため、規則は、加盟国管轄当局と欧州委員会を非公式のネットワークで結びつけることによって、手続の有効性を高めることができると規定しています。

この規則は、2004年5月1日から施行されます。これにより、欧州経済共同体規則1989年4060号と欧州共同体規則1997年1310号は廃止されます。

リファレンス

法令施行日加盟国における転換期限官報
欧州共同体規則2004年139号(制定過程:CNS/2002/02962004年4月1日 - 官報2004年1月29日L24号

関連法令

企業結合の審査に関する理事会規則2004年欧州共同体139号を施行する2004年4月7日の欧州委員会規則2004年欧州共同体802号(欧州経済地域にも関係のある文書です)(官報2004年4月30日L133号)

欧州共同体規則2004年139号は、「企業結合は履行前に届け出なければならない」という原則から出発しています。この届出は、一方においては、当該企業結合の当事者にとってメリットとなる重要な法的帰結をもつものですが、他方で、届出義務の懈怠については、当事者に過料が課される可能性があり、また、デメリットとなる民事法上の帰結がもたらされる可能性があります。この規則においては、届出の際に提出すべき情報が正確に規定されており、また、いかなる様式の申請書を用いるべきかが定められています。すなわち、別記第一の様式COの正本を35部の写しとともに欧州委員会に提出しなければなりません。但し、別記第二に掲げられた場合においては、別記第二に詳説されている略式の様式で提出することができます。共同申請については、単一の申請書で提出しなければなりません。

欧州共同体規則2004年139号によれば、該当する企業は、届出前の理由を付した申請により、当該規則の要件に当てはまる企業結合であっても、場合によっては、加盟国(単数・複数)から欧州委員会に、または、欧州委員会から加盟国(単数・複数)に移送する申請をすることもできます。理由を付した申請は、別記第三において要求されている情報・文書を含まなければなりません。この規則は、聴聞を受ける権利・聴聞に参加する権利・(情報の秘密を保持する限りでの)文書閲覧権の行使の要件についても規定しています。

この規則は、2004年5月1日に施行されます。これにより、欧州共同体規則1998年447号は廃止されます。

原文最終更新:2007年2月21日


この要点解説は、純粋に情報提供の性質を有するものであり、解釈に資するものでも参照法令に代わるものでもありません。法的拘束力を有する法的根拠となるのは法令のみです。


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