NIS諸国・中東欧諸国における原子力セキュリティ

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1) 目的

欧州委員会のNIS諸国及び中東欧諸国における核安全の改善への貢献を評価すること、及び、共同体の将来的な行動についての提案を示すこと。

2) 共同体の措置

2000年9月6日の欧州委員会の理事会及び欧州委員会に対する告示。NIS諸国及び中東欧諸国における核安全に対する欧州委員会の支援。

3) 内容

背景

欧州委員会は、1998年3月に、中東欧諸国及びNIS諸国における核安全の分野において共同体が講じている措置を詳述した告示を採択しました。告示は、それらの措置の将来的な調整についての提案を含んでおりました。この告示の目的は、1998年以来の発展の概観を提供し、この分野における欧州委員会のその時点での遂行任務を描写することです。

欧州委員会の遂行任務

欧州委員会の遂行任務は、国際社会の政策と一致する2つのきわめて重要な目的に支えられています:

  • 短期的には:〔原子力施設の〕稼動の安全性の向上、安全性評価に基づく施設の短期的な技術の改善、監視による予防対策の強化。
  • 長期的には:危険性の高い施設の廃棄の可能性を探り、その代わりに代替的なエネルギーと効率的なエネルギー使用を発展させること、比較的新しい施設の設備強化の可能性の調査。

現行戦略の実行

一般論として、欧州委員会は、政治的対話を促進し、技術援助及び財政援助を行い、加盟国及び隣接国における高度の健康保護を保障するよう努めております。

とりわけ、以下の手段を投入しております:

  • 財政的な枠組:
    • プログラムPHARE(中東欧諸国向け)ならびにTACIS(NIS諸国向け)及びその他のプログラムの枠内における技術援助
    • 欧州原子力共同体借款
    • 国際的協力の文脈において、欧州復興開発銀行の管理する核安全のための基金へのEUの出資
    • 加盟申請国がEUに適合化していく中で核安全のために〔供与される〕資金。〔核安全〕の問題は、EU拡大の枠内において優先的なものとされています。
  • 政治的な枠組:
    • 1992年に欧州連合、NIS諸国及び中東欧諸国の監視当局の間の委員会及び作業グループを設置したこと、特に、CONCERTグループ及び核監視当局作業グループ(NRWG)の設置
    • 加盟国及び加盟予定国の核監視当局及び施設運営者により構成される新たなグループ(欧州核施設安全グループ―ENIS)を設置したこと

これまでの前進

核安全の分野において、上記の国々においては、以下のような前進がありました:

  • リトアニア、スロヴァキア及びブルガリアにおける設備強化不能の設備の閉鎖に関する合意。欧州委員会はその実行に際して関係政府と緊密に協力を行い、3か国のPHAREプログラムを投入しました。
  • チェルノブイリ原子力発電所における問題の解決及び当該原子力発電所を2000年12月15日をもって停止する決定へのきわめて重要な貢献
  • NIS諸国及びブルガリアの14施設に対する常設的な現地援助
  • 技術援助による独立的な監視当局を強化したこと、及び、とりわけCONCERTグループ及び核監視当局作業グループ(NRWG)における緊密な連絡
  • プログラムPHARE及びTACISの枠内で(部分的には欧州原子力共同体借款と結びつけて)、スロヴァキア、ウクライナ、ロシアに建設中の原子力発電所の安全基準を高めたこと
  • 設備の調達により〔原子力〕施設の運営を改善したこと
  • 中東欧諸国における廃棄物処理及び環境に対する危険性の問題を強調したこと。これについての現況に関する詳細な報告書
  • 核技術施設の稼動停止に関して、技術的な性質の要素、法的な性質の要素及びエコロジー的な性質の要素など、さらなる要素が考慮されるよう問題設定を拡大したこと
  • ロシア方法論職業教育センター(RMTC)の開設。これは、ロシアにおける核物質の数量的把握とコントロールのための国家システムを創設するために重要な前進である。

そのほか、EUは、代替的エネルギー源の開発及びエネルギー効率性の改善を含む、エネルギー戦略の発展と改善に貢献しました。

さらに、共同体は、1992年のモスクワでの国際科学技術センター(ISTC)の設立に参加しました。この国際科学技術センターは、他の独立国家共同体諸国においても活動し、「核兵器の専門家の知識がソヴィエト連邦終焉後には他の方法で利用されなければならない」という問題に取り組んでいるものです。

財政資金

EUは、1991年から1999年にかけての期間において、総額9億1300万ユーロをこの分野に準備しました。すなわち、PHAREプログラムの枠内で1億9200万ユーロ、及び、TACISプログラムの枠内で7億2100ユーロです。このうち、1億ユーロはチェルノブイリ・シェルター基金のためです。

総計950件のプロジェクトに融資を行いました。すなわち、PHAREの枠内で300件、及び、TACISの枠内で650件です。450件は実行中であり、200件は準備中です。しかし、EUが行うことのできる財政援助は、必要性と比較して制限されます。

分析及び将来展望:加盟予定国

核エネルギーの生産は、少なくとも6つの加盟予定国〔当時〕においては、近い将来においても、エネルギー供給の本質的な部分を成します。13加盟予定国のうち7か国は、原子力発電所を運営中又は建設中です。3加盟予定国(ブルガリア、リトアニア及びスロヴァキア)については、設備強化不能の原子力発電所を是認できる費用で廃棄することが義務づけられています。したがって、欧州委員会は、一方において、〔原子力発電所の〕廃棄の実行に取り組んでおり、他方において、既存の原子力発電所の設備強化のような核安全の問題に取り組んでいます。

欧州委員会は、ブルガリア、リトアニア及びスロヴァキアにおける原子力発電所の廃棄のために財政援助の支払を開始しました。〔原子力発電所の操業は〕段階的に停止していきます。ブルガリアのコズロドゥイ第一原子力発電所及びコズロドゥイ第二原子力発電所は、遅くとも2003年までに停止します。〔コズロドゥイ〕第三原子力発電所及び〔コズロドゥイ〕第四原子力発電所の停止期限に関する決定は、2002年における欧州委員会との取極に含まれることになります。リトアニアにおいては、イグナリナ第一原子力発電所が、遅くとも2005年までには停止します。〔イグナリナ〕第二原子力発電所の廃棄については、2004年に決定が下されます。欧州委員会は、遅くとも2009年までに停止するという考えです。スロヴァキアのボフニツェV1の2つの原子力発電所〔ボフニツェ第一及びボフニツェ第二〕については、それぞれ2006年、2008年に停止します。

欧州委員会の見積りによれば、現在の財政予測の終了まで(2000年~2006年)の援助総額は、スロヴァキアに対しては1億5000万ユーロ、リトアニアに対しては1億6500万ユーロとなります。ブルガリアに対しては、欧州委員会は、2006年までの期間に対する2億ユーロの複数年援助パケットを提示しました。この〔2億ユーロのうち〕半額の調達は、コズロドゥイ第三原子力発電所及びコズロドゥイ第四原子力発電所の最終的な停止について、2002年に確約がとれるかどうかによります。これらの援助はPHAREプログラムからくるもので、2000年6月12日に創設されて欧州復興開発銀行に管理される、この3つの原子力発電所〔コズロドゥイ、イグナリナ、ボフニツェ〕の廃棄のための基金からきています。さらに、移行期においても高い安全水準が保証されることが重要です。

その他の核安全の問題としては、受容可能な安全水準に至る設備強化を行わなければならないその他の原子力発電所(西側式又はソヴィエト式のもの)があります。そのようなものとしては、コズロドゥイ第五・第六原子力発電所(ブルガリア)、チェルナヴォダ第一(稼動中)・第二(休止中)原子力発電所(ルーマニア)、ボフニツェの2つの原子力発電所及びモホヴツェの2つの原子力発電所(スロヴァキア)、スロヴェニアのクルシュコ原子力発電所(現在、スロヴェニアとクロアチアの共有)、パクスの4つの原子力発電所(ハンガリー)、ドゥコヴァニの4つの原子力発電所及びテメリンの1つの原子力発電所(チェコ共和国)があります。

欧州委員会は、関係加盟予定国とともに、追加的に支援を行うためにとることのできるさらなる措置を確定していきます:

  • 「取締補助管理グループ」(RAM-G)及び技術支援のための組織(TSOG)を通じた核監視当局の支援
  • 廃棄すべき原子力発電所における緊急の短期的な安全技術の改善。これは、とりわけコズロドゥイ第二・第三・第四原子力発電所において廃棄まで安全性が確保されなければならないということに関わります。いずれにせよ、合意された廃棄義務において予定されているよりもこの原子力発電所の操業が長くなってしまうようなプロジェクトに対しては、共同体は援助を一切行いません。
  • 特別な場合には、特定の設備強化可能な原子力発電所(WWER440-213型及びWWER1000型)の安全性の改善を、法的枠組の検証、プロジェクト管理及び操作援助の形式で、支援すること
  • 第五枠組プログラムにのっとった研究協力
  • 特に公衆衛生の監視の観点から、緊急事態における原子力発電所外での計画を立てること
  • 放射性廃棄物及び使用済み燃料に対する法的・制度体的枠組条件の強化
  • あらゆる不法な取引の撲滅のための安全性の監視の分野におけるプロジェクト

分析及び展望:NIS諸国

〔NIS諸国のうちの〕いくつかの国々については、核安全のプロジェクトに使用できる共同体の資金が、その必要性に比してきわめて僅少であるという理由で、それらの国々と〔核〕安全問題の一般的コンセプトを合意することは困難であることを、報告書は確認しています。さらに、個々の国々の間には、地理の点、産業基盤の点、及び、核安全問題に関する議論をする用意があるかどうかという点において相違があります。欧州委員会の今後の政策は、これらの要素を勘案しなければなりません。これらの国々における安全基準は、引き続き不安を喚起しています。

2000年から2006年にかけての期間に施行される新しいTACISプログラムは、NIS諸国の核安全プログラムのための3つの優先事項を含んでいます:

  • 核分野における効果的な安全文化の促進
  • 使用済み燃料及び核廃棄物の処理ならびに施設の廃棄の戦略の発展及び実行
  • チェルノブイリ〔原子力発電所〕の廃棄のためのG7や欧州連合のイニシアティヴのような国際的イニシアティヴへの貢献

新しいプログラムは、効果的な安全システムの導入の際の支援も予定しています。

EUの今後の援助は、以下の事項を含みます:

  • 許可手続の改善を促進し、監視当局がすべての関係する核技術の活動をカヴァーすることを保障するために、核安全を管轄する当局の役割を強化すること
  • NIS諸国の原子力発電所とEUからの運営者の間の連絡が生み出されるような現地援助
  • 設計の安全性のための特定のプロジェクトの支援
  • 原子力発電所の残り稼動期間に合致した安全分析を含む、規律作業
  • 使用済み核燃料及び放射性廃棄物の処理の改善ならびに〔原子力発電所の〕廃棄の遅れのない準備の促進
  • 財政的に健全な電気及び核のセクターを創設するために、公共及び民間の〔原子力発電所〕運営体の企業構造を改善すること
  • 欧州原子力共同体借款を、特に原子力発電所の安全技術的な改善のために調達すること
  • 3つの主要目的をもつ安全性監視プロジェクトの促進及び発展:監視スタッフ及び施設運営人員の職業教育、核物質の数量管理、ならびに、違法な取引を撲滅するための原子力発電所における措置

すべての措置は技術的なコントロールを受けることとし、すべてのプロジェクトは欧州委員会により技術的な監視を受けます。

NIS諸国の各国特有の側面

アルメニア
アルメニア政府は、安全な代替エネルギー供給が入手可能である限りにおいて、2004年までに原子力発電所を廃棄するという承諾を、繰り返し確認しております。欧州委員会は、特に原子力発電所の廃棄計画、代替的な供給源及びメツァモル原子力発電所の現地援助について、アルメニア側と協力しています。

カザフスタン
カザフスタンにおいては、1994年以来アクタウ原子力発電所が現地援助を受けております。さらに、〔カザフスタン〕政府は、1999年に、原子力発電所を再び稼動させることはないという決定を行いました。これは、NIS諸国においてはそれまで唯一の決定でした。現時点の援助は、廃棄の準備に限定しております。

ロシア連邦
ロシア連邦は、原子力のすべての分野において活動している唯一の旧ソヴィエト連邦国家であるため、特に重要な役割があります。核エネルギーは電気の生産の重要な要素であり、民間核産業は重要な雇用者となっています。いずれにせよ確実なのは、ロシアは、さまざまな発電方式から構成されるエネルギーの本質的な部分として、原子力を保持することを決めているということです。ロシア政府は、引き続き新たな原子力発電所を建設しており、原子力発電所の使用年限を延長しようと努めています。

EUとロシアは、TACISプログラムの枠内において、複数のプロジェクトで協力しております。もっとも、EUからの融資は、〔ロシアにとっては、〕他の国々ほど決定的なものではありませんが、自らの努力を補うものとして歓迎すべきものと見られています。

核安全の問題における出発点は、EUとロシアでは根本的に異なります。このことは、ロシアが、欧州復興開発銀行の核安全のための基金との合意の重要な規定に違反し続けていることにより明白です。

ロシアは、第一世代の原子炉の使用年限について、本来の設計上の使用年限である30年を超えて延長する戦略を遂行しています。このような政策については、欧州委員会は支援しておりません。

しかしながら、欧州委員会は、ロシアとの協力を深めたいと考えており、その際には、同時に、この国の国内政策を尊重しなければなりません。欧州委員会は、その際、協力において〔以下の〕特定の側面を念頭においています:欧州原子力共同体借款の許可、安全性監視の分野での協力、核セクターにおける監視当局の支援ならびに北西ロシアにおける使用済み燃料及び放射性物質の処理における協力等。

ウクライナ
ウクライナは、1994年から1996年に掛けて、TACISプログラムより、核安全のために1億ユーロの補助金を受けました。欧州委員会は、この期間において、チェルノブイリ原子力発電所の廃棄計画の作成、エネルギーセクターの改革の支援、ならびに、建設中の2つの原子力発電所を国際的な安全基準に適合するように完成させるという、エネルギーセクターの大きな代替プロジェクトのような、特定の優先事項に集中しました。

シェルター実行計画(SIP)は現在実行されています。この計画は、欧州復興開発銀行の管理する特別基金から資金が出ており、この特別基金には、TACISが1998年から1999年の期間に9040万ユーロを調達しました。

今後の戦略には、チェルノブイリの支援の継続、核安全の問題に対する意識を高めること、エネルギーセクターの改革の促進、及び、新たな原子力発電所の完成に際しての協力の継続が含まれます。

分析と展望:実施

上記の措置の実施にあたっては、欧州委員会は、核セクターの特殊性(競争が存在しないこと及び官公署と協力する必要性)を考慮しなければなりません。

プロジェクトの実施に際して、いまだに大幅な遅延があることを記しておかなければなりません。欧州委員会は、ルールを明確に作成するとともに、個別の援助を特定の契約に結びつけることによって、この問題を解決するつもりです。加えて、契約は、各セクターの複雑で特別な要求に適合したものでなければなりません。欧州委員会内においては、よりよい効率性の観点から、核安全についての移管作業を行いました。さらに、欧州委員会は、2001年から核安全の分野におけるNIS諸国に対する財政支援には単一の予算を組むことを提案しています。

結論

欧州委員会は、1991年以来、本項において扱った国々における核安全基準の改善に多大な貢献をしてまいりました。しかしながら、なすべきことはまだたくさんあります。欧州委員会は、これらの国々の核安全に引き続き高い優先順位が与えられるよう努めていかなければなりません。さらに、欧州委員会は、必要な作業を行うのに都合の良い経済的・法的枠組条件が整うように努めていかなければなりません。

4) 各国の実施規定の成立の期限

なし

5) 施行時(4とは異なる場合)

〔記載なし〕

6) 法源

欧州委員会2000年493号確定
官報未搭載

7) その他の作業

〔記載なし〕

8) 欧州委員会の施行措置

〔記載なし〕

原文最終更新:2006年4月10日
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